予防と健康管理ブロック レポート
1.はじめに
予防と健康管理ブロックの2回の講義で、うつ病とストレスについて、アスベストと中皮腫についてのビデオを観た。そのなかでも特にストレスについて興味を持ったので、今回のキーワードをストレスと、ストレスホルモンであるコルチゾールに選定し、レポートを作成した。
2.選んだキーワード
ストレスとコルチゾール
3.選んだ論文の内容の概略
@臨床検査技師国家試験が受験学生に及ぼすストレスの影響
臨床検査技師国家試験2日前の学生の協力を得て、試験前のストレス感を、ストレスの指標となる唾液コルチゾール、精神的ストレスの指標となる唾液クロモグラニンAおよび感情評価を行うAffect gridを用いて測定した。
第4学年の4月下旬の一般講義中の演習時に、安静時の唾液採取およびAffect gridのチェックを行い、次に、臨床検査技師国家試験2日前の3月某日に唾液採取およびAffect gridのチェックを行った。また、可能な被験者のみ、7月に90分間のVDT(visual display terminal)作業による負荷試験を行い、唾液を採取した。Affect gridは直行する二次元座標で構成され、被験者は現在の感情あるいは気分を「快―不快」および「覚醒―睡眠」の交点1箇所にチェックする方法で、点数化できるだけでなく極く短時間で回答できる質問紙法である。
結果は、唾液コルチゾール値は4月時と国家試験2日前で差は無かった。唾液クロモグラニンA値は4月時に比べ、90分間のVDT負荷試験後、国家試験2日前共に増加していた。一方、Affect gridによる感情評価点は「覚醒―睡眠」では4月時と国家試験前で差は無かったが、「快―不快」では4月時から国家試験前で値が有意に減少しており、不快感の強さを表していた。また、質問紙による回答から得た各被験者の自己採点結果とクロモグラニンA濃度との間には有意の相関が認められた。
唾液コルチゾール値はこれまでの研究から、慢性ストレスあるいは安静の指標になる。立つ、歩く、動く等の日常的な生活状態はほぼ一定の唾液コルチゾール濃度を維持させるが、じっと座ったままでの作業時間が長くなると唾液コルチゾール濃度は低下する。今回の結果は、国家試験前の自己学習時間が長く、コルチゾールの低下は体動の少なさを示唆している。唾液クロモグラニンAは顎下腺導管部に存在し、自律神経刺激により唾液中に放出され、心因的ストレスに際してのみ増加が知られている。今回の結果から、唾液クロモグラニンAと国家試験の得点の関係が示唆され、国家試験直前にストレス度の強い人ほど得点が低い傾向が強いことが示された。換言すれば、自己の学習目標に到達していない人や試験に対する緊張感の強すぎる人では、より強い心因的ストレスを受けたことを示しているといえる。また、今回測定した3者間には有意な相関はなく、いずれか1つを測定しただけでのストレス状況判断は難しいことが分かった。これらの結果から、臨床検査技師国家試験に臨む学生では心因性のストレスが強いことが示され、クロモグラニンA値と国家試験の得点の間には負の相関が認められた。
今後、このような結果を考慮した学生へのケアが可能になるかもしれない。
A卒業前看護学生の心理社会的ストレスの実態
―心理社会的尺度と生理学的指標からの評価―
卒業前看護学生を対象とし、どのようなストレスを認知しているかその内容を明らかにし、ストレス対処能力はSense of coherence;首尾一貫感覚(以下SOCと略)による評価、ストレス反応は質問紙による主観的評価と生理学的指標による客観的評価を行った。さらに、ストレス対処能力とストレス反応の関連を検討した。
対象者には基礎情報調査、質問紙による心理社会的ストレス反応の測定、血液、唾液の採取さらにSOCの測定を行った。基礎情報調査では、基礎情報として、「年齢」、「前日の睡眠時間」、「本日の朝食摂取の有無」、「ここ最近(過去1ヶ月から現在までの間)のストレスだと感じた(感じている)出来事」について自由に記載してもらった。このうち、「前日の睡眠時間」、「本日の朝食摂取の有無」については生理学的データに影響を及ぼす可能性を考慮し調査した。次に、質問紙による心理社会的ストレス反応の測定では、質問紙に既存の尺度(SpielbergらのState-Trait Anxiety
Inventory;不安尺度の日本語版)を用いた。これは不安を「状態不安」(以下A-State)と「特性不安」(以下A-Trait)に分けて考えられたものであり、前者は一時的、後者はストレス状況に対して状態不安を喚起させやすい傾向、すなわち状態不安を引き起こす個人的特性を示すものである。両者とも4段階尺度(1点から4点)の回答方法で回答させ、合計得点で評価し、得点が高いほど不安傾向が強いことを示す。血液及び唾液の採取では、ストレスの生理学的指標として、ストレスを受けた際の脳―下垂体―副腎皮質系の反応からコルチゾール、β−エンドルフィンを指標とした。両者ともに血液で採取することが望ましいが、採血そのものによる一時的ストレスを最小限にする目的で、コルチゾールは唾液を検体とした。SOCの測定では、Antonovskyの提案したSOCスケールをもとにした日本語版スケールを用いた。SOCは把握可能感、処理可能感、有意味感の3つの下位概念からなる29の項目で成り立っているが、3つに分けるのではなく、総合的に用いるだけでよいとされており、7段階で回答を求め、7点から1点を当てはめその合計得点を求めるものである。合計得点が高いほど多様なストレッサーに遭遇しつつも、それによってストレスを生じにくいことを示す。
結果について、基礎情報から述べると、対象者の平均年齢は22.3±0.9歳(range21-25)、前日の平均睡眠時間は5.6±1.5時間(range4-10)、調査当日の朝食摂取状況は14名(66.6%)が摂取しており7名(33.3%)が摂取していなかった。睡眠時間や食事摂取状況により生理学的データに有意差は認められなかった。ストレス内容では、「ここ最近のストレスだと感じた(感じている)出来事」については、対象者がストレスだと感じていることを自由に記載してもらったが、全員が何らかのストレスを感じていた(複数回答)。無記載の者はおらず、全員に共通するものは「国家試験の結果」であった。ストレス内容が全く同じであるものはいなかった。
今回の調査において、対象とした卒業前の看護学生はそれぞれに何らかのストレスを感じていた。ストレス反応の評価とした不安尺度得点と生理学的指標データから、まず不安尺度に関しては、「A-Trait」、「A-State」ともに極端に高いまたは低いということはなかった。生理学的指標についてだが、唾液中コルチゾールに関してはその指標の個人差が大きく、平常時の値において標準値に収まらない人が存在し、また平常時の値が極端に低い人の場合はストレス時にも標準値を超えない可能性があると指摘されている。β−エンドルフィンに関しても健常人の安静時血中濃度の範囲は5~20pg/mlとされており、基準値に幅があることからも同様のことが言える。つまりコルチゾール、β−エンドルフィンともに個人差が大きいため、一時点の個々人それぞれのデータをもって高いのか低いのかを判断することはできないが、対象の平均値から判断すると両指標とも高い、すなわちストレスが高い状態にあると考えられる。ストレス内容は個々人で異なっていたため、唾液中コルチゾールや血中β−エンドルフィンの高値がどのストレスによるものなのかは特定できない。しかしストレスとして挙げられていた内容のうち、「国家試験の結果」は全員に共通するものであったこと、また調査期間は国家試験の結果発表まで約2週間の時期であったことを考慮すると、この生理学的指標は対象者がこの時期は平常時ではなかった(ストレスフルな時期であった)ことを反映していると考えられる。つまりストレスが高い状態にあったと客観的に評価できた。ストレス対処能力の評価として用いたSOCに関しては明確な基準が設けられていないため、今回のSOC得点は顕著に高すぎたり低すぎたりということはないということまでしか述べることができないが、SOCとストレス反応の関連を検討したところ、SOC得点の低値群が高値群に比べてA- Traitが有意に高かった。さらにSOCとストレス反応の相関をみてみるとSOCとA-Trait間では弱い負の相関を認めた。「A-Trait」とはストレス状況に対しては状態不安を喚起させやすい傾向、すなわち状態不安を引き起こす個人的特性を示すものであり、一時的なストレスではないことを示す指標である。A-Trait、SOCともに他の報告と比べ、極端に高すぎるまたは低すぎるわけではなく、またSOCの低さとA-Traitの因果関係は示せないが、SOCが低くなることは、一方では精神的な健康に悪影響があり、また一方では日常生活上の問題を通して身体的な健康にも影響を与えると考えられ、今回のSOCとA-Traitの関連もSOCが精神的健康へ影響するということを支持する結果であると考えられる。
以上のことより、卒業前の看護学生は「国家試験の結果」、「引越し」など何らかのストレスを認知しており、ストレス評価指標として用いた唾液中コルチゾール、血中β−エンドルフィンが高値を示したことから、高いストレス状態にあったことが客観的に評価された。またストレス対処能力とストレス反応の関連では、SOCの低い人ほどA-Traitが高く、SOCが精神的健康状態を現す指標(ストレス指標)として用いられる可能性が示唆された。
4.考察
2つの論文から、唾液コルチゾールや唾液クロモグラニンA、血中β−エンドルフィンを生理学的指標とし、さらに何らかの質問紙による結果を併せることで、ストレスの程度が測れるということがわかった。ここで、キーワードに選んだコルチゾールに関して、ストレスとの関係を詳しく調べてみると、ストレス反応におけるコルチゾールの作用は、血圧上昇、血糖上昇、心収縮力の上昇、心拍出量の上昇などがあり、これらはカテコラミン補助作用ともいえる。コルチゾールの分泌はカテコラミンの刺激でさらに高まるという、正のフィードバックの関係もあり、急性のストレス反応時にはその相互作用で一気にemergency reactionが燃え上がる。ところがその一方で、コルチゾールは間接的に交感神経を鎮めてカテコラミンの暴走を抑えようとする負のフィードバック機構でもある。また、一般にコルチゾールは免疫力を低下させるのだが、反対に感染ストレスなどで免疫反応が活性化するとコルチゾールの分泌が刺激されるという、免疫との相互作用があることも分かっている。このようにコルチゾールはストレッサーの刺激によって動き始める幾重ものフィードバックの中で、促進と抑制の影響を受けたり与えたりしている。これが、精神、免疫、内分泌への複雑な情報ネットワークに影響して、ストレス反応を多様なものにする。したがって、ストレス刺激が慢性化した場合は、コルチゾールの慢性的な影響がストレス反応に大きく反映するようになる。
ビデオでも、被験者に精神的負荷(複雑な計算をしてもらう)をかけた後に、血圧の測定と血液、唾液の採取を行うと、リラックス時に比べ血圧は上昇し、圧倒的に副交感神経優位だったものが、あまり差がなくなり、交感神経の作用が増加した。また、唾液アミラーゼの値は負荷をかける前と後では約2倍に増加した。
このように、いまやストレスは様々な方法で調べることができるようになっており、ストレス社会と叫ばれる昨今では、健康診断のなかにストレス診断も加えていくべきではないかと考えられる。そもそも、ストレスとは、危機に対して体を防御するシステムのひとつであって、決して体にとって悪いものではない。だが、ストレスが過剰になると、このシステムも働きすぎてしまい、うつ病や不眠症、不妊症という症状があらわれてくる。実際に症状となってあらわれる前に、採決や唾液の採取によってストレスの程度を数値化し、慢性的に数値が高い人には、相談にのるなど、早めの心的ケアを行っていくことができたら理想的であると考えられる。
5.まとめ
今回、ビデオや論文を読んで、ストレスが数値化できるということを初めて知った。また、コルチゾールの慢性的な影響がストレス反応に大きく反応するということも明らかになった。これから関心が高くなってくる分野であるので、幅広い意見を取り入れ、熟考を重ねていくことが重要であろう。